学振を 出さない理由が 特にない から出してみたらという話

 「学振」。大学院生が博士課程に進むのなら、聞いたことがあるはずです。学振とは簡単に言うと、研究者の卵として前途ある学生に100万近くの研究費+月20万の生活費をあげる、という制度です。ほとんどの院生は日々の生活で月20万なんて稼げないので、学振に採用されることを目指して選考書類(申請書)を書くわけです。もちろん強制ではないので、申請書を提出する人もいれば、提出しない人もいます。

 

 今回、自分は、来年から博士課程ということで応募が可能になり申請書を提出しました。申請書を書いてみて、やっぱり「出した方がいい」と思ったいきさつを体験記とともにまとめていきます。

 

 

 3月、申請書の応募が始まりました。締め切りは所属大学ごとに異なるのですが、私の場合5月の中旬ぐらいでした。書類のフォーマットを見て何を書くか考えていたものの、一ヶ月が出張やらであっという間に過ぎてしまい、当然、申請書は真っ白のまま。

 

 4月に入り、1日から申請書作成を本格的に始めました。一週間過ぎたところで、学振にすでに採用されている先輩と話をして、「4月1日に完成して添削してもらわないとダメでしょ」と言われ、結構焦りました。

 

 焦りがピークに達した4月15日・16日の土日は本っ当に辛かったです。どれだけ考えても文章がいいと思えない。書く内容が埋まらない。そもそも何を書いたら正しいのかわからない。何もうまくいかず、「自分って本当にダメなんだ」と自己否定の極みでした。キーボードを触っていると指が腐っていくような気分になるし、申請書のWordファイルを見るたびに気分が悪くなりました。

 

 助けを求める意味も込めて、自分の中で30点くらいの申請書を教授に見てもらいました。当初は完成したものを見てもらおうと思っていたのですが、時間的にも精神的にも余裕がなくなっていました。教授には、「申請書作成を頭が拒否しているのが文章からわかるので、一回休んでください」と言われました。まあ、とてもひどい内容だったことは明らかです。ただ、しんどい状態を分かってもらえたので、気が楽になりました。簡単に文章の流れを相談し、一週間頭を休めると、自分の研究に対する視野が狭まっていたことに気づき、書くべきことが増え、内容が埋まらない、ということは無くなりました。

 

 書くことが明確になると形になるのは早くて、2週間くらいで7割方完成しました。そのときすでに4月30日で、締め切りまで10日くらいしかなかったけれど、添削をお願いし始めました。学生、先生含めとにかく本当にたくさんの人に見てもらって、15人くらいからコメントをもらいました。コメントをもとにGWも直し→添削→直しを繰り返して、最後に暗記できそうなくらい見直して、提出。しばらくは燃え尽きてぼーっとしていました。

 

 約1か月間本当に大変でしたが、学んだことは多かったです。まず、自分の研究について背景や意義も含めて、ちゃんと体系的に理解することができました。研究に対する自分の思考がまとまったように思います。技術的な面では、言いたいことを伝えられる文章が書けるようになりました。

 これって、研究者が研究するために当たり前の思考と技術だと思うんですよね。確かに申請書作成は時間が取られるし、その間本分の研究は進みません。でも、研究者は研究ができる、だけではなくて、自分で研究費が取れることも必要になってきます。学生のうちは所属研究室のボスがお金を取ってきてくれるけど、自分の研究資金は自分で工面しなければなりません。学振を出すことでその経験がいち早くできると思います。

 だから、月20万もらいたいかそうでないかで学振応募を決めるんじゃなくて、後々必要な能力を鍛える上で取り組んでみたらどうでしょうか。先人の「学振出せ」という言葉もそういう意味が入っているのかなあ、と。だいたい、お金なんて大方の博士学生は困ってないし、稼ごうと思ったら学振以外にも方法はあります。きちんと文章をかけてきたら、直すのも楽しくなってくるし、やってみたらいかがですか、学振。