研究が辛いと感じないための心の持ち方

 この記事は CAMPHOR- Advent Calendar 2019 3日目の記事です.2日目の記事は honaiサイトの読み込みが終わらないのでアニメーションを調べてみた でした.

 こんにちは,サカシタです.大学院生で,普段は研究をしています.このブログの読者の中には,研究をする予定・現在している・過去していた人がいらっしゃると思いますが,皆さん,研究が辛いと思ったこと,ありませんか?私はあります.研究が辛いと感じることは誰にでも起こりえます.今日の記事では,私の体験を通して,研究が辛くならないために知っておきたかったこと,辛くなってしまったときの対処法,本当に限界がきたときに考えたいことを書いていこうと思います.想定する読者は来年から研究室に配属予定の学部3年生(B3),現在研究に取り組んでいる修士・博士の学生です.特にB3の学生について,脅すつもりはないのですが,それまで順調に進級してきたのに卒業研究を始めた途端,急におかしくなってしまう事態がままあります.卒業までの貴重な時間をできるだけ充実したものにできるよう,参考になれば幸いです.では,研究する上で事前にわかっておきたかったことから始めます.

研究開始前・直後にわかっておきたかったこと

研究する目的の設定

 まず研究が辛くなることの原因の1つに,「自分が思っていた以上に研究活動がうまくいかない」という事前の予想と現実の落差があります.研究がはじめからうまく進めばいいですが,うまくかなかった場合,最低限これだけは達成したいと思う目標を決めましょう.例えば学部・修士課程を卒業後就職するつもりなら,目標は「卒業論文を提出できればいい」でしょうか.博士課程に進学する場合でも,学部の卒業研究は同じ目標で良いと思います.博士にいくからという心持ちだけで始めから他人より上手く研究できるわけではないです.少し研究が進んで結果が溜まってきたら,修士で論文を一本出す,に目標が変わってきます.

 目標設定のコツは自分の能力に期待をしすぎないことです.最初は全然低い目標設定にして,それ以上のことは望まなくて良いです.目標の引き上げは結果を出したあとにしてください.周りを参考に目標を高めに設定することもやめてください.他者を意識せず,とにかく自分を基準に考えてください.研究活動を人生で一回もやったことないあなたが,独りで(日本語でも)論文を書けますか?私は書けないし,実際独りでは書けませんでした.高い目標設定は挫折の原因になります.

他者との比較競争から身を置く

 研究は,授業でよくあるペーパーテストより,小学校でやった図画工作に似ていると思うときがあります.どんな材料・手法を使ってもいいし,何を作っても良い.絵画と彫刻が一緒に並んで論評対象にされる.何が言いたいかというと,皆が同じテーマで同じ実験をしているわけでもないのに,てんでバラバラな研究で成果の比較は不可能です.しかし,論文という媒体が最終的な成果発表の形式になっているので,論文数を指標として比較をしてしまいがちです.他人と比べても自分の研究は進まないし,繊細な人は変に落ち込むだけです.特にTwitterとかSNSは見ちゃだめです.

 それよりは自分が出来たことに目を向けて,達成感を大事にしてください.私の場合はまず一本論文が出たとき,たくさん論文を出している人がいることは一旦置いといて,自分はよく頑張ったと思うことができました.以降は自信をもって研究することができています.

正解の行動は誰も知らない

実験方法の条件検討

 誰も見たことがない物体・現象を見たい,解析したいとなったとき,それを実現する方法は現在どこにもないし,誰も知りません.研究室の人に訊いて「それはやったことない.わからない」と言われることはよくあります.「こうすればいいよ」といった指針を示すアドバイスがない状態は,研究を始めたばかりの人にはとても不安です.しかし裏を返せばそれは,あなたの行動を間違いだとは誰も言わないことと同義なので,とにかく手を動かして色々試してみてください.試行を通じて比較的良い手("最善"かはわかりませんが)を見つけ,繰り返して精度を磨いていきましょう.

研究の方向性

 研究室内に既存の知見がないことは実験手法に限らず,研究テーマにも当てはまります.新規テーマの場合,先生もアプローチの仕方を探っていて,学生に試させているのかもしれません.繰り返しますが,何からどうやって手をつけるのか正解はありません.研究テーマの場合,どこに着目するかが研究者の個性であり,それは人によって違います.自分のやってみた結果が評価されたら,それはあなたの個性が肯定されているということです.そうなる未来を期待すると,結構研究楽しくないですか?

   研究する上で新しいことに挑戦することは,自分一人で全部やるということではありません.手を動かしていく中で,問題が発生したら迷わず相談してください.次は研究相談についてです.

相談は大事

 卒研配属までストレートで進級しており,研究室に入った当初毎日来ていた学生の研究が全く進まず卒論が書けなくなるのは,本人だけの問題ではありません.研究には,進みを悪くする落とし穴が小さなものから大きなものまで無数にあります.個人で解決しきれるものは少ないので,迷わず学生や教員を頼って意見を訊いてみてください.

よくある困りごと

 研究関連のブログ記事や身近な人の話などでよくある困りごととして,①環境構築・実験手技の習得時点で躓く,②研究のテーマが明確でない,③現状の研究テーマで結果を出すのが難しい,があります.まず①は,研究室配属直後の研修期間に起こりがちです.この場合,研究室に必ず知見があるはずなので,解決策を知っている先輩,教員を捕まえて質問しまくりましょう.彼ら・彼女らの方が様々な事例を知っているので,一緒に考えてもらえば,独りで考えるよりも必ず早く解決します.

 次に②について,基本的な技術習得が一通り終われば,研究テーマを設定することになります.研究のテーマは「研究する対象」と「解決・解明すべき問題」の組み合わせで成り立っています.対象のみが与えられている場合,問題は先行研究で未解明・未開発の部分としましょう.先行研究がどこまで到達しているのかは,論文を読んだり,研究室の人に聞いたりして学んでください.そして,対象すら与えられていない場合,ひとまずは自分が興味のあるもの・ことに関して同じ方法で先行研究を調べてみてください.興味のあるものがなかったら,最初に思いついたもので大丈夫です.とにかくなんでもいいです.私の場合,何に興味があるのか考えすぎて苦しかったので,手近なところから始めてください.考えすぎて独りで抱え込まないように,積極的に他人を頼ってください.対象が定まっている人に比べて,先行研究を調べる量が増えますが,対象の設定は研究の核心となる重要な作業ですので,腐らずに取り組んでほしいです.あなたが苦労していることはみんな理解しています.研究対象が定まってきたら,問題設定は前述と同様です.

 最後に③について,結果を出すにために研究テーマの達成を最終ゴールとして,短期間でこれだけは達成したいという小さなゴールを段階的に設けてください.相談すべきは,自分の設定した小さなゴールが適切か,それらを達成していけば結果的に研究テーマが達成できるのか,の2点です.何人かに相談しみて相手の反応がどれも悪そうだったら,アプローチが適切でない,つまり筋が悪いということです.もう一度計画を考え直してみましょう.思考実験だけで余計な実験をしなくて良いなら時間が大幅に短縮できます.どんどん相談してください.また,博士課程の学生は研究テーマがそもそも難題だったということもあるので,しばらく手を動かして厳しそうだったら素直に相談して,テーマの変更を検討してください.

相談するときのコツ

 自分の悩んでいる気持ちを相手にわかってもらって,有益な意見をもらうためには,悩みを言語化して具体性を上げていくことが重要です.悩み相談でも手技の教育でも,考えることを丸投げされると相談された側は困ります.前述の通り正解のない問題が多いので,考えることが大変だし,全面的に信頼されるほど意見に責任が持てないからです.

 自分の頭で言語化することがままならない場合,例えば,研究で同じように悩んでいる人のブログを読んでみて,「自分に当てはまる」と思った文章をそのまま抜き出してみてください.なんとなく自分はこう思っているんだということがわかってきたら,同級生や先輩後輩,話しやすい教員と話しながら考えをまとめます.考えがまとまったら,指導教員に直接話してみましょう.喋りに自信がなければ先にメールで文章化して送るのも良いです*1

 相談して晴れて解決したら,おめでとうございます.解決したことの報告をするとなお良いです.報告をもらえると,相談された側はあなたが研究を進めていることがわかって相談を受けた甲斐があると感じられます.相談・報告を繰り返して,できるだけ落とし穴にはまらないようにしましょう.

休養も大事

 相談しても解決の糸口が見つからない,もしくは作業が自分の許容量を超えているとき,ひとまず1日2日休んでください.アイディアは毎日出るわけではありません.「その間に他の人は研究を進めているし...」と焦る気持ちはわかりますが,もう一度「他者との比較競争から身を置く」を読んでください.正直言って1日2日休んでも進捗に大差はないです.私は卒研のときが辛かったので,家でテレビを見たり本を読んだりしていました.外出する場合は図書館に行っていました.平日の図書館はわりと楽しいですよ.

 ただ身体が元気なのに3日以上休むのはあまりおすすめできません.研究室配属までほぼ毎日授業に参加して活動していたのに,急に活動しない日が増えると精神がおかしくなっていきます.何もすることがないと,「自分が生きている意味とは...」とか変に深刻に考えることになります.どれだけしんどいときでも最低週2日は研究室に行って人と喋るようにしていました.  

 また,ご飯は必ず温かくてちゃんとしたものを3食食べてください.カロリーメイト一箱のような雑な食事を数日続けると,本当に生きている気力がなくなっていきます.身体に無理を強いてもいいことは一つもないので,まずは健康でいてください.

研究は自己管理の上に成り立つ

 研究で辛くならないためには,自分が今しんどいのかしんどくないのか,何がしたいのか常に問い続けることが必要だと私は考えています.しんどいならしんどくなくなるまで休めば良いんです.研究は全ての人がしんどい思いをしてまでやる活動ではありません.好きな人がやりたいだけやっていればいいと思います.

 研究ができなければ人間的に欠陥があるわけでもありません.研究していなくても素晴らしい活動をしている人はたくさんいます.研究に愛着がなければ,卒業研究の要件をさっさと満たしてしまいましょう.好きでもないことで生きる気力を無くすなら,自分がやりたい他のことについて勉強したり手を動かしたりする方が時間は有効に活用できます.

 他のことをやった結果,やっぱり研究の方が楽しい,実験したい!と思うのであれば,また研究活動に戻ってこられます.私もしょっちゅう研究以外のことをしては,その後にまた研究して...を繰り返しています.楽しく思う気持ちがあった方が研究好きになれますよ.読者の皆さん,良い研究生活を!  

 ここまで読んでいただきありがとうございました!明日の Advent Calendar 担当はaratasatoです.お楽しみに!

*1:相談を受けてくれる指導教員を見つけるのは本当に大事です.指導教員が卒論・修論の単位認定を決定するので,指導教員ともめると大抵うまくいきません.積極的に色んな研究室を訪問してみてください.できれば配属前に研究室のボスと一対一で話すのが望ましいです.そのような時間がとれる人なのか,配属されるかわからないような人の話をある程度親身になって聞いてくれるのか,判断基準は色々あると思います.性格の合う教員を見つけてください.