SAKANAQUARIUM 2019 (834.194) 感想
ミュージシャンがベストアルバムを出すとき，それは活動の節目であり，今後を左右する分岐点だと思っている．正直，新譜のアルバムを数年出していないミュージシャンがベストアルバムを出すと，このグループは縮小していくかも，と考えてしまう．昨年サカナクションがベストアルバムを出したとき，おなじことを考えた．だから今年の3月に，彼らのツアーチケットの先行販売が始まったときは，久しぶりに名前を見て，まだ活動してるなら久しぶりにライブいくか，とチケットを適当に購入した．今思うと，新しく発売されるアルバムとちょうど対面するライブだったので，幸運だった．この6年間アルバムを待ち続けていたファンからすると，期待のいっそう膨らむツアーだったことは間違いないだろう．
かくして，サカナクションツアーSAKANAQUARIUM 2019 (834.194) に参加した．前回参加したツアーが確か2016年なので，もう3年前になる．開演前に入場していちばん，会場全体を包む青色の照明が気になった．アリーナの天井が高いこともあいまって，海の水底にいるような感じがした．開演までの待ち時間，最初は適当にメールチェック*1などしていたのだけど，ふと客席を見回すと，2階席までほぼ満員で埋まっていた．3年前はいくつかのブロックが封鎖されていたのか2階席は一部人がいなかった．その部分が埋まっているのを見て，3年の間に着々とファンが増えてきていることを感じた．これは，サカナクションが行ってきた数々のタイアップが影響している，と思う．実際，映画の主題歌になっている「新宝島」や「陽炎」では，ファンの大合唱が聴こえた．サカナクションのファンってこんなだったっけ？と少し驚いた．
演奏に際し，今回全アリーナで導入された6.1chサラウンドを初めて体感した．正直，あれを体感すると，他の邦楽バンドのライブはよほど好きでない限りいけなくなる，というくらい最高の音楽体験だった．アリーナの側面と後方にスピーカーがつくと，耳に入ってくる音の広がりがまったく変わってくるのである．おそらく，曲中で各スピーカーから出力される音量に偏りをもたせることで，音が右から左へ進む，もしくは後ろから前に近づいてくるような体感が得られている*2．「さよならはエモーション」のイントロでシンセが進行波のように聴こえて，今でも覚えている．また，全方向から低音で耳に圧がかかり，それが途切れたのちの，クリーンなアコースティックギターがこんなにも綺麗な音に感じられるのか，という驚きもあった*3．
音楽もさることながら，3年ぶりにライブに来てみて，映像・照明など音楽以外の演出もいっそう凝るようになっていた．楽器とライティングのスポットのタイミングを合わせたりしていて，これリハーサルとっても大変なのでは，と余計な心配をしてしまった．完成度の高い演出を受けとって楽しんでいるファンもファンで，「アルクアラウンド」のアウトロの手拍子を一切間違えず正確に叩いている人を斜め後ろに見ると，「ああ，この人めっちゃ曲聴きこんでるんやろうな」としんみりしたりもした．当たり前だが，最近のタイアップでサカナクションを知った人もいれば，「アルクアラウンド」から注目していた人，果ては1800枚しかCDが売れていなかった「Go To The Future」の頃から聴いている人もいるのだ．「Go To The Future」に収録されているアルバム曲の「白波トップウォーター」が本ツアーでも演奏されていることは，バンドもファンもそれを認知しているゆえのことだと思う．私は「アルクアラウンド」からのサカナクションしか知らないが，「白波トップウォーター」が以前からライブで聴きたくて，演奏してもらえて嬉しかった．
結局，何の気なしに購入したチケットのライブがとても良くて，またサカナクションを聞き出すようになった．もちろん，のせられて新譜のアルバム「834.194」もCD+Blue-rayで（!）買ってしまった．今回のアルバムについているBlue-ray映像も普段演奏しない曲盛りだくさんの格好いい映像になっているので，まだCD買っていない人もいまさら，と思わず，買って観てほしい．これも言うと極度のミーハーだと思われそうだからあまり言いたくはないが，オフィシャルファンクラブにも入った*4．グッズは気に入ったもの以外買いたくないが，金銭的に支援していきたいと思ったからである．年会費45,000円は正直安すぎて，もう少しベットできる口が欲しいと思うくらいにはいいライブだった．また機会があれば行きたい．
