食卓から学ぶ形態学(魚の椎骨編)

今日の夕食に焼き魚,例えば,サバの塩焼き*1が出てくるとする(図1).大抵の人は身の部分を食べて,背骨を残す(図2).背骨も食べる!という猛者はいないため,残った背骨はほぼゴミ箱へ直行する.けれどこの背骨,実は観察すると面白いことがわかるのである.いったい,魚の背骨を見ていたら何が面白いのか?

図1:今日の晩ごはんは焼き魚
図1:今日の晩ごはんは焼き魚

図2:ごちそうさまでした
ごちそうさまでした

 魚の背骨は,鼓のような形をした小さな骨がつながってつくられている(図3).この一つ一つの骨は椎骨と呼ばれている.椎骨は,いろいろな種類の魚で実は側面の形が違っている.例えば,まぐろの椎骨.側面には太い柱のような構造が一つある(図4).さらに,アンコウ*2の椎骨は,まぐろの椎骨とまったく異なり,うすーい平らな骨でできた網目がびっしりとはりめぐらされている(図5).このように,魚の種によって,椎骨のかたちは大きくちがっているのである.この2種はかなり極端な例なので,他の種も見てみることにする.カガミダイという魚の椎骨を例にあげる.ちなみにこの魚は有名ではないが,とても美味しいので,機会があれば食べてみることをおすすめする.カガミダイの椎骨は,マグロの椎骨に似た厚い板のような構造を椎骨に側面に複数もつ(図6).しかし,マグロの椎骨では板状構造が滑らかであったのに対して,カガミダイの椎骨の板状構造は,その表面が部分的に網目状の構造をなしている.言いかえると,板状の構造と網目状の構造が共在している椎骨なのである.この3種の図を見て,網目構造をつくっている薄い骨がまとまって,板状の構造がつくられていると想像できないだろうか.まったく見た目の異なる椎骨が,実は共通しているのかもしれない?むむむ,さらに詳しく見てみたい.

図3:サバの椎骨
図3:サバの椎骨

図4:マグロの椎骨
図4:マグロの椎骨

図5:キアンコウの椎骨
図5:キアンコウの椎骨

カガミダイの椎骨
図6:カガミダイの椎骨

 骨格標本の目視による観察では,側面構造の表面を大まかに見ることしかできない.そこで,椎骨の内部構造を,目視よりもさらに細かい解像度で観察することにした.わたしの研究室にはさまざまな種類の顕微鏡があるが,今回はマイクロCTを使用した.皆さんCTときくと,人間のからだを撮影する医療機器を想像すると思う.マイクロCTは,同じ原理でもっと小さい物体の内部を撮影できる.もちろん,機械のサイズは撮るものに合わせて小さくなっている.このマイクロCTを使うと,骨の断面を非常に細かく観察できる.その解像度は,数マイクロメートルの構造を検出できるほどである.魚の椎骨は大体1センチ近くあるので,1万倍こまかく見ることができる.この精度で椎骨を輪切りに観察すると,とてもおもしろいことが解った.なんと,さきほどのアンコウの椎骨で見えた薄く平らな骨が,マグロの椎骨の内部にも見えたのである.椎骨を輪切りにした断面図(図7左)を見ると,アンコウの椎骨は,中心から放射状に薄いシートのような骨が何枚か広がっている.この薄いシート状の骨は,目で観察した網目を構成する骨の一枚一枚と対応する.動画で見ると,さらによくわかる(動画1).

図7:椎骨の断面図
図7:椎骨の断面図

 次にカガミダイの椎骨をアンコウと同様,輪切りにして見てみると,薄いシート状の骨が複数かさなって厚い板が構成されている(図7真ん中,動画2).最後にマグロの椎骨の断面図を見てみよう.内側にぽっかり空いた空洞は後で説明するとして,厚い板の先端に放射状の線が入っているのがわかると思う.これは,一枚一枚のシート状の骨が密にかさなってできていることを示している(図7右,動画3).これまで見てきたどの魚の椎骨も,中心から放射状にのびる薄いシートで側面のかたちをつくっている.つまり,側面のかたちが違っていても,それは同じ薄い骨からできていて,かたちの違いはシートがまばらになるか,集まるかといった配置で決まっているのである.また,断面図で側面以外の部分もよく見ると,すべて放射方向の線が入っている.このことから椎骨全体が,薄いシート状の骨が配置することによってつくられているとわかる.

 同じ魚で椎骨の形が違っていても,それらは同じ仕組みで作られていることはわかった.それでは,なぜ椎骨のかたちが違うのか?という疑問に対しては,正直に言うとまだ答えはわかっていない.しかし,それを考える根拠として,先ほど説明を省略したマグロの椎骨にある空洞が重要になってくる.この空洞は他の魚の椎骨でも見られることがあるが,面白いことに,どの魚でもシートののびている方向とはまったく無関係につくられる.逆に,シート状の骨は空洞ができていても,放射状の方向を維持している.シートは外側の先端に新しい骨をくっつけることで伸びていくと考えられているため,シートをのばす過程と空洞ができる仕組みは独立している.マグロの椎骨をみるに,シートが中心からのびた後,空洞ができると予想される.さらに注目したいのは,マグロの椎骨の外側のかたちである.カガミダイなどとちがって,マグロの椎骨は板状構造のかたちが丸みをおびている.一枚一枚のシートが同じ度合いでのびるとカガミダイの椎骨の断面のように扇形になるはずだが,マグロの椎骨はそうなっていない.ということは,外形をなめらかにしている別の仕組みが存在するはずである.

 生き物の骨というのは,骨をくっつけたり削ったりして滑らかな形にととのえられている(骨のリモデリングと呼ばれる).骨のどの部分を増やす,もしくは削るか決めるのに重要なのは,骨にかかる力である.力が強くかかる場所は骨を太く・厚くして,あまり力のかからない場所は骨を細く・薄くする.魚の椎骨の側面構造にも薄い・厚いの違いがあった.厚い板のような構造を有するのはマグロ,カジキなどの,回遊魚に多い.対する,薄いシートのような骨で網目構造をつくっている椎骨は,アンコウやフグなど,ほとんど体を横に振らない魚にみられる.このことから,魚の椎骨のかたちは泳ぎ方によって異なるのではないか,とわたしは考えている.

 以上の内容は原著論文"Comparative morphological examination of vertebral bodies of teleost fish using high‐resolution micro‐CT scans"を参考に書いています.論文では,より多くの種でシート状の骨を観察しているので,興味のある方はぜひ一度ご覧ください.最後の仮説部分は観察とコンピュータシミュレーションを使って現在研究中ですので,次回の論文にご期待ください.この論文を掲載するにあたって,協力いただいた共著者の近藤滋先生,佐藤真央さんには,本当に感謝申し上げます.

*1:サバに見られる迷路模様は「チューリングパターン」と呼ばれる(気になる人は検索してください).

*2:正確には「キアンコウ」