「ダンス・ダンス・ダンスール」はもっと読まれてもいいと思う

はじめに

 最近,好きな漫画は?って訊かれたら必ず「ダンス・ダンス・ダンスール」を推しています.が,残念ながら身の回りに読んでいる人があまりいません...なぜ?そりゃアニメ化ドラマ化メディアミックスが全然されていないんですけど,だいぶ熱量のある,面白い漫画だと思うんですよ.漫画結構読みますっていう人にも「へー,知らなかったです」みたいなリアクションされるから,きっと私の身の回りだけなんだ,ネットでは盛り上がっているはず...,と信じて,Google検索したら,

 一般人の書いたレビュー記事がない!!!うそ!!!...

 え,うそじゃん...作者「溺れるナイフ」のジョージ朝倉ですよ?有名な漫画家やん...掲載されてるマンガ誌も週刊スピリッツでメジャー誌なのに...なぜ?「なぜ?」という気持ちが膨らみすぎて,もう自分が書くしかない,という決意に至りました.以下,ネタバレを混じえながら個人的な推しポイントを連ねていこうと思います.ネタバレを見ずに先に一話目を読みたい人は,公式ページへ飛んでください!

 では,レビュー進めます!

「ダンス・ダンス・ダンスール」ってどんな漫画?才能と努力の戦いを描く漫画!

 「ダンス・ダンス・ダンスール」は,主人公の男子中学生・村尾潤平(じゅんぺい)がバレエ大国ロシアの一流バレエ団で主役を張ることを目指しバレエを極めていく漫画です.タイトルにある「ダンスール」という単語は男性のバレエダンサーを意味します.バレエって習い事で触れてもいない限り普段の生活に馴染みがなさすぎて,全然常識がわからないですよね...私もこの漫画を読む前は,バレエって白いチュチュ着たバレリーナがくるくる踊っているもの,くらいの認識でした.でもこの漫画を読んでいるとわかるんですが,バレエは極めて激しい肉体運動で,踊りを芸術に昇華するために,めちゃくちゃな努力が必要なんです.加えて,踊りの美しさを追求するために,身体,特に脚のスタイルの良さ,高い運動能力,体の柔軟さと言った”才能”が求められます.努力ではどうにもならない部分がある故に,トップダンサーの座をつかむ競争は苛烈で,残酷です.

 才能と努力はよく漫画のテーマになる二項対立ですが,本作でその両立に一番悩んでいるのが安田海咲(みさき)という潤平と同じバレエ教室に通う男子です.この海咲,小学生の頃からバレエ教室に通っているのですが,中学2年生から突然バレエを始めた潤平の才能と,潤平のライバルで4歳から十年以上バレエを続けている流鶯(るおう)に脅威を感じてしまうんですね.それは,海咲の家はバレエを高校まで続けることに反対で,バレエを続けるためにはスクールで一番の生徒しかもらえないスカラシップを獲得したかったから.当初スクールの先生は自分の素質に注目してくれていたのに,二人の突然の登場により,スカラシップ獲得は危うくなります.スカラシップをとるために,なりふり構わず潤平と流鶯を陥れようとする腹黒い姿はとても人間的です.最終的にはスカラシップを潤平に獲られてしまい,バレエ継続を一時は断念しますが,スクールの先生が海咲の両親に相談し,好きだったバレエを続けることが叶います.

 ここからの海咲の巻き返しがすごいんですよ...

 潤平や流鶯の圧倒的才能を目の前にして,海咲は自身の才能に劣等感を感じながらも,それを補うために努力を積み重ねていきます.ただ,あくまで指導・審査する人の目をだます努力をする,という心持ちのため,指導者に褒められても,「うまく踊れているように上辺を装うことができた」という自己評価になってしまうんですね.しかし,そんな海咲に転機が訪れます.それは,次の公演「眠れる森の美女」の主役を決めるために,優秀な女子生徒とペアダンスを踊って,潤平のペア含む複数ペアと競い合う,というオーディション.このペアを踊る優秀な女子生徒・白波響(ひびき)が,海咲の劣等感の原因である,圧倒的な芸術的才能の持ち主なんですね.海咲は当然,響が自分の才能不足に不満を感じて息を合わせてくれない,と悩みます.しかし,ダンスの息が合わないのは,別に海咲の才能が低いからではなくて,響自身が自分はブスで,イケメンの海咲に釣り合わないからという別のコンプレックスが原因でした.お互いのコンプレックスをぶつけ合い,響が海咲を認めてペアダンスの息を合わせてくれたところから,海咲の会心撃が始まっていきます!!もともと努力家で野心家,自分に自信をつけ始めて,スクールの経営する日本一の団で主役を張るという夢を強く目指し,ペアダンスを極めていきます.二人のペアダンスが練習を経て完成するシーンはとても熱量が高いです!そして,オーディション前のリハーサル,もうここで主役が決まってしまうかも,という時期に,響の踊りに磨きがかかり,海咲がそれについていけなりつつあることで自信をなくしてしまいます.そこで響がかける言葉,「あなたは指導者に認められる(王子の踊りの)正解を上手くやろうと考えすぎている...」,

 えっ,響,わかってるやん...海咲の上辺を装っちゃう悪い癖,見抜いている...!!!

 しかもその次のセリフで,「(ブスの)私を蔑むことなく接して踊ってくれたから,自分も(迷っていた)プロになる決意をした.あなたのおかげ」と言うんですね!

 海咲には王子を演じる才能がもともとあることを認めているーーーー!!!

 そして,ありのままで踊りきった海咲・響ペアが,

 主役を獲るんですね....!!!

 熱い!!!熱すぎる展開!!!王子選抜の流れが天を衝いてるーーー!!!

 もうここに至るまで12巻なんですが,ここまで読む頃には完全に海咲の親目線で喜んじゃいました...海咲のもともとの才能は勿論あるんですが,他の登場人物に比べて自分の才能の客観視が冷静にできていて,他者との差を着実に努力で埋めようとしている分,すごく共感できます.

 海咲の紹介が2000字近くになって,熱量の偏りがすごいんですが,他にももうひとり好きなキャラがいます.それは,潤平の才能を見出して,バレエを習うことを勧めてくれた女子中学生・五代都(みやこ)です.都は個人的な作中一番の美少女なんですが,控えめな性格ゆえにバレエ指導者である親にバレエダンサーとして主役になれるほど有望ではない,と判断されています.身体的素質は十分にあるのに,自分でも主役は無理,と半ばあきらめていて,トップダンサーになる夢の実現を幼馴染の流鶯に託していました.しかし,流鶯が一足先にロシアへ留学し,自分もロシアへついていくか?と選択を迫られたとき,やっと独りでバレエを極めていくことを決意するんですね...決意を口にする10巻のこのシーン,たまらなく好きなんですよ...そして,海外へ留学するためのスカラシップをコンクール予選落ちだったのに貰えて,都が涙するシーンでは,「ここから頑張ってね...!!」と応援する気持ちでいっぱいになれます.予選落ちでスカラシップもらえる時点で才能が高いはずなので,伸びしろをもっている都のここからの会心撃を楽しみにしています!!!

 そして最後に,主人公の潤平も,スクールのスカラシップ選抜で他の生徒に「才能って本当残酷だ...」と言わしめるほど優れた生徒なのに,バレエ経験の浅さ,自身の人間的な中身の薄さに悩みながら努力しています.15巻の自分の内面と向き合うために付箋に思考を書き連ねているシーンは,見ていて苦しいものがありましたが,次の16巻でその苦悩が踊りに昇華されるんではないかと期待しています.  

さいごに

 「ダンス・ダンス・ダンスール」のいいところは,各々の登場人物が悩みを抱えつつも誰かに依存することなく自律して成長していく点にあると思います.加えて,成長した先にある,完成された踊りを披露するシーンは,どの登場人物においても盛り上がりが最高潮に描かれていて,その興奮はひとしおです.ぜひ漫画で体感してください!この記事がより多くの人に「ダンス・ダンス・ダンスール」を読んでもらうきっかけになったら嬉しいです!!

公式ページ

www.shogakukan.co.jp

https://click.j-a-net.jp/1999024/844448/

https://click.j-a-net.jp/1999024/844280/

余談

 「ダンス・ダンス・ダンスール」は感情描写もさることながら,技術的な説明も丁寧なので,これを読んでバレエの動画を見ることにハマってしまいました.最近見ているのは,作中でも登場する Royal Opera House のバレエ団.まだすべては観られていないんですが,特に以下の白鳥の湖の黒鳥(オデット:王子を騙す偽の姫)役のナタリア・オシポワ(ロイヤルの主役ダンサー)の演技は素晴らしいです...!!!他のチャンネルの動画も見るとわかるんですが,結構つま先立ちでふらついたり,脚がゆるくて曲がっているようにも見える踊りが有る中で,このオシポワのつまさき,脚,ほんとうに真っ直ぐでシビレます.回転全然ぶれないし,リズムに合わせた細やかなステップが技術力の高さを示しています.そして,ニクい笑顔見せてくる感じ,こ,小悪魔感がすごい〜〜〜!!!!「ダンス・ダンス・ダンスール」を読む前は全部同じに見えていた踊りが,一つ一つ違って見えるようになるのはとても楽しいです.

※ ロットバルトとオデットのサムネイルがとても格好良い.

あとは,The Australian Ballet の動画も普段知ることのないバレリーナの日常が描かれていて勉強になりました.映像の中で登場するコンテンポラリーダンスが格好いいです.