「ワンダンス」読むと高校の先輩を思い出す

小学生の頃,とある体育の授業で大変に恥ずかしい思いをした.授業内容は,音楽に合わせて振り付けを考え,皆の前で踊る,というものだった.当時大流行していた,個人的にはさして好きでもないJ−POPソングのイントロに合わせて,数分で考えた振り付けを踊った.自分すら格好がついていないと思うものを大勢の人の前で披露するのは,結構な苦痛である.今回紹介する漫画「ワンダンス」の1話目も,主人公が同様の経験をするところから始まる.

漫画「ワンダンス」は,吃音もちの男子高校生・小谷花木(かぼく)が同級生のダンサー・湾田光莉(ひかり)と出会うことで,喋らなくていい自己表現方法であるダンスを極める,というお話である.この漫画,何がすごいか,というと,様々な表現技法を駆使することで人間の踊る動きが自然に想起されるのである.腕や脚周りに様々な濃度の流線を書くことでそれらの軌跡を可視化し,人物の線画を二重に重ねることで細かな身体の振動を表現している.加えて,パラパラマンガのように,動きを細かく分割してコマを連ねることで一連の動きを表現し,異なる視点からの画を多用することで,似たような動きにも違う印象を与えている.ざっと思いつく限りでもこれだけの表現が使われており,本来ならば動画で見て楽しむはずの踊りを,静止画で実現させている.

表現技法が新しい漫画「ワンダンス」であるが,これを読むと自分の高校にあったダンス部を思い出す.なぜかというと,高校のダンス部が主人公たちの通うダンス部と同様,数十人いる女子のなかに1人男子がいるという部員構成だったからだと思う.1人だけいた男子部員が部内でどういう扱いを受けていたのかは全く知らないが,彼は文化祭や部活動紹介で女子部員がまとめて踊った後,1人でロボットダンスを披露していた.もちろん高校の体育館,生徒・教師全員の前で,である.当時見ていた自分は「上手」ぐらいの感想しか無かったが,今思うと,大勢の視線を一身に受けて,格好のついた振り付けを踊りこなす,というのは並大抵のことではないな,と感じる.ダンスの良さを理解している人間なんていたのか怪しい観衆の中,16歳で自己表現を貫いていた彼はすごかった.

彼が今どこにいるのか,まだ踊っているのかは知らないし,自分がダンスをしているわけではないけれど,「ワンダンス」を読んで,踊りによる自己表現とは何なのか興味が湧いた.作中で紹介されている World of Dance 含め様々なダンスコンテストを You Tube で最近観ている.この前,とある女性が1人でロボットダンスをしている動画を見た.リズムに合わせて十分近く踊った後,音楽が終わってやりきった笑顔を見ると,身体を動かすことが自己を表現する作品と感じられる人間の感性って,とてもおもしろいと思ったのである.

「ワンダンス」は現在3巻まで出ています↓

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msakashita.com